第十七話 先立って行った釣友との思い出 (上)

ありったけの酒を平らげると 砂防堰堤上で 大の字と成り寝てしまったのは もう何時の事
だったのか! 亀尾島川内ヶ谷の 心地良い昼下がり 柔らかな日差しを浴び 時の経過も
忘れ 只泥の様に眠った。
若かりし頃のあの日 釣友S氏と其の仲間らと
特大のクーラーBOXに 目一杯のビールと
焼肉を詰め込み まるで子供の遠足さながらに
ワイワイ騒ぎながら 郡上の町を抜けた事さえ
気付かなかった! 長良川に掛かる古い橋を
渡ると 狭くなった地道を 黒田峠へ向け 只 
ひた走り  最奥の林道分岐点へと 車を止め
たのは もう夜明近く辺りも薄明るく成り出した
頃であった。

この時分の内ヶ谷は 釣りシーズン真っ最中に
置いてもアプローチ ルートの酷さにか 余り
釣人の姿を 見止める事さえ多く無かった
魚影は すこぶる濃いものであったが 其れは
中小型のサイズが 中心との記憶に残る。

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”おい今日 酒は控えめだぜ!”  ”おお あたぼうよ!”
酔いつぶれ目覚めると 辺りは既に薄暗く成り出した 前回釣行の反省から 今回は亀尾島川を
下流より 内ヶ谷 上会津向け 酒とは無縁の遡行をと意気込む二人   しかし、と言いながら
お互いのクーラーBOXの中には 所狭しと缶ビールが納まって居るのを確認 一人ニンマリして
居た。     相生の橋を渡り 那比川との出会いを過ぎると 亀尾島川沿いのルートはやがて
狭く地道へと変わる 其の先大栃谷の向こうでは 鉄製のゲートが立ちはだかり 例え其処を
抜けることが出来ても 何程も行かず二つ目のゲートにぶつかる! ・・・はずだ?・・・

徒歩でのみ 入渓可能と成る其の先は だら々
と続く荒れた地路 しかし何と今回車の荷台には
スーパーカブが 此れでもかと云った存在感で
デンと鎮座して居る  此れでゲート奥の釣場は
今日 俺達二人で独占だ〜! 二人胸躍らせ
先へ進んだ・・・

    ・・・”ええーっ!”・・・

件のゲートを前にして 我々は同時に声を上げ
てしまう  目前で通せんぼする筈の ゲートが
開いて居るではないか? 其れもまたご丁寧に
二箇所共だ 
徒歩で向かう事で 初めて触れる事の出来た
内ヶ谷の流れは 今日は俺達だけの為にと 
鼻息も荒く 意気込んできた二人は 重苦しい
空気に 顔を見合わせ 深い溜息をつく。

”せっかく積んで来たんだ こいつで行こうぜ!” S氏の提案に 路脇の空きスペースへと
車を放り込み 渡した足場板を誘導すると スーパーカブは 荒れた地路へと立った!
思い切りエンジンを回すと 土埃を舞い上げ 一路上会津向けひた走る ”ソーラ行くぜ々。”

何時も 徒歩で二時間掛かる廃屋前に 今日は十五分程で着けた スーパーカブを藪中に
押し込み隠すと すぐ手前を本流向け駆け下る枝谷を 下降のルートに選んだ・・・・・・
その昔 この辺りを漁場としていた郡上の職業漁師は こういった急峻な谷の奥深く 魚を
上げ ・・隠し谷・・として 幾つもの釣場を創り上げ確保し それは々 大事にして居たと云う
どんな激しい条件にも 注文に答えなければ成らない プロの心意気を想うと とてもその様な
谷へと分け入る気には成れなかった 今 あの谷は一体どんな姿で其処に有るのだろうか?

・・・酔いどれ渓師の一日 第十八話 先立って行った釣友との思い出(下)に続く・・・

                                                OOZEKI